これは人事異動で新しい任務についた人たちに贈った言葉。とりわけ、彼、彼女がこれまで組織の中でいささか不遇で、そんななか新しい配属先が提示されたようなとき、心を込めて話をした。
「これまで組織の中であなたが哀しみも見てきたとしたら、そのことも含めて、これからの仕事の役に立つ。いやむしろいろいろ多彩であった人生模様をもっていることこそが強みだともいえる。そう、君のこれまでの人生はまさにこの新しい仕事をするためにあったのだ」
ひとつの考え方。気持ちのあり様。
憲政の神様と呼ばれた咢堂・尾崎行雄(1858年〜1954年)は、このような考え方を「我が思想」と名付けている。
(中略)
ともあれこの「思想」に至った時の咢堂は70歳を迎えていたという。その事実に驚愕した。たしか40歳直前で少しくたびれていた自身と引き比べ、なんとういう強靭さ、いや、しなやかさ。
70歳のこの人がこの精神で明日を見つめられるのなら、我ら若造がうだうだしているのは許されんぞ、といった感慨である。
まことに精神とは素晴らしいものだと思う。
「これまでの自分の人生は、今日からのこの日々のためにすべてあったのだ」そう思える人の前に広がる道は、明るい。たとえ苦難と哀切がありとても。
『暗い奴は暗く生きろ』
- 著者
- 生嶋 誠士郎
- 出版社
- 新風舎/22世紀アート
- 出版年
- 2007年