筆者は「人事教育事業」の担当だったことがある。この事業は例えば管理職教育の研修などを実施するわ けだが、これは講師の体制の範囲に限定された営業活動になる。当然、当時の主力の情報誌事業に比べて利 益率も成長率も小さなものになる。社内会議で「人事教育事業は、もっとなんとかならないのか」と指摘さ れて筆者が返した言葉がこれ。
『情報誌はいわば「高速輪転機回転札束印刷業」のようなところがある。こちらは「労働集約的教育事業」なのだから同じ土俵で論じていただきたくない』と。
一同爆笑でその場は収まり、この言葉は一時社内で流行になった。
さて、そういう自慢めいたことを書いてもなんの足しにもなるまい。筆者が「高速輪転機・・・」と性格付け、かつ大方がそれに同意の笑いを与えたという事実に、リクルートのやり方の真髄が隠されている。
それは、あらゆるビジネスを徹底的にシステム化するということ。目指したのは、[昨日入社したアルバ イトの人でも今日は正確な営業トークが言える状態]である。決して人のクリエイティブな資質に依存しよ うとは考えないで、徹底的にシステム化する。毎日の戦いはそのシステムで行う(近年のコンビニの手法に 似たものを感じる)。そのシステムの織密さとシンプルさが成長を支え続けたわけだ。
では社員はどこで創造性を発揮するのか。それはビジネスの仕組みをつくる時に、それを変える時に、新 規事業を提案する時に、そして組織をマネジメントする時に、である。
[現に動いている現場はシンプルシステムに、明日の仕組みは思いっきり頭を使って〕
これがリクルート流である。
ホントに札束を印刷しちゃ、いかんけど。
『暗い奴は暗く生きろ』
- 著者
- 生嶋 誠士郎
- 出版社
- 新風舎/22世紀アート
- 出版年
- 2007年