知ることは愛することである 生嶋 誠士郎

 たくさんの方法で、繰り返し情報を伝達しようとすることも、リクルートのマネジメントの特質のひとつである。情報活性という特 徴。最近は社員一人ひとりに配布されたパソコン1台にすべての情報があるという仕組みが流行だが、あれの対極の手法。昨日役員会で 決定したことを、今日はA職(アルバイトの人)も含め全員が知っている。出来ればなぜそのような決定をしたかを知っている。管理職 はその決定に対する部下の質問や疑義に適切に答えられる。というようなことを目的として多様な情報伝達ルートが存在していた。即刻 では部会、課会でのロ頭伝達、ついで解説が週刊社内報と月刊社内報。さらにマネージャー向けの特別報。さらに衛星テレビ番組、全社員集会(宴会付)とあり、社員は多様な方法で同じ話を何度も聞く。ほかに部門内報というのもあり、そこで自部門のことは詳しく解説 される。これには手間とコストが膨大に必要で、「社内広報担当」社員の圧倒的に多い会社であった。

筆者はよく営業先などで、「うちの会社、社員が会社のことをよくわかっていないんだよ。そればかりか逆の解釈をしている者もい る。リクルートさんはどうしているの?」という質問を受けることがあった。そのときにリクルートの仕組みを解説すると、「おたく、 そっちを商品にして売りに来てよ。今日のおすすめ商品は検討しておくけどさ」。と思わぬ展開になることをしばしば経験している。 経営者は意外と情報伝達に腐心しているものなのだ、という感想に至る。強制的な上位下達というのはさほどうまくいかないものらしい、 という発見。

後にセミナーのまくらなどでよく話した。「古語で言えば、知ると愛するは同義です」と。マネジメントというものが、社員をその気 にさせるという目的をもつ以上、出来れば社員に会社を愛してほしいわけで、その決め手のーつが情報活性。

これにいかほどのコストをかけるのが合理的かの算式は無いが、丁寧で親切な情報伝達を心がけることは、「社員の好意」という最高の返礼への道であることは間違いない。

一方、何をしているかわからない、というのは、我々一般に、“うさんくさい”感じがするものなのだ。それがたとえば隣人の場合でも・・・・

そう、知ることから愛することが始まる。

『暗い奴は暗く生きろ』

著者
生嶋 誠士郎
出版社
新風舎/22世紀アート
出版年
2007年