管理職はその能力を示す前に、まず覚悟を示せ 生嶋 誠士郎

これは昇進した部下にあるとき贈った言葉。言った当人である筆者は長らく忘れていたが、あるとき彼と飲んだ際に「イクさんの言葉、今も胸に置いています」という挨拶を受けた。「はじめに」で触れたその気にさせられた出来事のひとつ。

彼のセリフを聞いて、喜んだか、舞い上がったか、仰天したか、そんな気分。この例は必ずしも外交辞令でなく、実際に彼は自分自身に対しても、部下の管理職に贈る言葉としても、長く活用しているらしい。覚悟が大事だと。

確かに、例えば新任管理職が自分の能力をひけらかす振る舞いをしても、その効き目は短いし限界がある。「会社員が務まるような人間の能力はさしたる差が無い」が筆者の持論。

能力勝負は本人が期待するほどの効果は無いのだ。少なくとも筆者の場合はそうだった。なにしろどう主観的に見ても、あまたの部下の方が優秀だったから。さすれば上司としてやれることはひとつだけ。組織と摩擦が生じたときの覚悟を示すのみ。

このことは一見颯爽とした風情だが、さにあらず。自分ひとりが奮闘するよりも、組織全員がその気になってくれる状態のほうが「組織最大力」が大きいというわかりやすい思惟である。ただ「覚悟」はコンビニでは売っていないだけだ。

さて余談だが、覚悟の言葉をプレゼントした彼には、ついでに「時には狂え」とも言ったらしい。先般、彼からの追加の挨拶で「最近、少し狂えるようになりました」と。役員である彼が狂っているのか、「大丈夫か、会社は?」は冗談だが、言葉には一定の力があることを、それこそ覚悟して発しなければならない、という顚末。

『暗い奴は暗く生きろ』

著者
生嶋 誠士郎
出版社
新風舎/22世紀アート
出版年
2007年