未完であれ実力主義 生嶋 誠士郎

筆者はこの数年の流行である「実力主義」「能力主義」といった言葉に胡散くささを感じるものである。それが人事コンサルティング会社の商売として喧伝されている、とは言わないまでも。

年功序列と終身雇用から決別した現代経営が、次に人件費の適正配分と称して謳いだしたのが実力主義であるが、その実態が明確で納得性の高いものなどひとつも見当たらないように思われる。

(中略)

そこで思う。「労働の3要素」であるペイとポストとポジションとを。ここでポジションというのは〔重要な仕事を任せられた立場〕といったものであるが、いずれにせよこの3条件が揃えば人は燃える。逆にこのひとつも無いとしたら辞めたくなる。自明である。世の実力主義、能力主義というものは、評価によってこの3つとも年配者から若者へ移し変えることもあるわけだが、いきなりそうせずとも、若い有能な人にはまず「ポジション」だけを与えるということでよいのではないか

(中略)

結論に進もう。要は、「組織の75%以上がそれなりに納得する評価」の繰り返しを続けられるか否かなのだと思う。それは、厳密な実力主義評価テーブルだけでは断じて及ばない世界である。「信頼出来る上司によってなされる」という前提つきではあるが、〝匙加減〟といった曖昧なものが必要だ。そう、信頼出来る上司が決めたことなら評価テーブルは要らないとも極言できるほどだ。納得性も高まる。正当な悔しさもまたしかり。

(中略)

ボクは心から願う。いつまでも未完なれ、実力主義。

『暗い奴は暗く生きろ』

著者
生嶋 誠士郎
出版社
新風舎/22世紀アート
出版年
2007年