取締役会の愚かさ 生嶋 誠士郎

筆者は入社早々に「遅刻常習犯」であった。そこで遅刻を改善させるために会社が考えたのが禅寺での研修。 こうして歴史的な『第一回参禅研修』が鶴見の総持寺で始まった。他の遅刻仲間10数人と一緒の規則正し い5日間。早寝早起きも身について、すっきりした気分の最終金曜日の午後、会社から人事課員がやってき て我々に給料袋を届けてくれた。当時は現金支給であり、週末に金が無いのは気の毒だという会社の心遣い である。しかも近くの中華料理店での解散タ食会は会社持ちであった。遅刻常習者へのなんという配慮。嬉 しかった。忘れまいこのおおらかさ。

しかし筆者は、その好意をそのあとぶち壊した。

参禅研修のあと、社内報に感想文を書く段になって僕が書いた原稿のタイトルが『取締役会の愚かさ』。

〔参禅研修は自分にとってはまことに快適であった。出来るものなら半年に1度くらいはまた行きたいも のだ。参禅研修対象者としてまた指定されたいくらいである。従ってこれでは僕へのこらしめには全くならない。この研修で、遅刻者が減ると思うのは愚かであると言ったら失礼であろうか〕。こういった原稿である。まことに汗顔。

当然のことだが、これはタイトルも含め掲載前に関係者にはわかっていた内容である。だが一字一旬訂正 されることなくそのまま掲載になった。まことに「抜けている」といえるほどのおおらかな風土だった。

参禅研修では懲りない面々であった筆者は、このおおらかさに感激して襟を正した。参禅研修は、その後行われなかった。

『暗い奴は暗く生きろ』

著者
生嶋 誠士郎
出版社
新風舎/22世紀アート
出版年
2007年